ホームナレッジコラムドラッカーについて「真摯さ」とは?ドラッカーを深く理解する重要キーワードを詳しく解説します

ドラッカーについて

「真摯さ」とは?ドラッカーを深く理解する重要キーワードを詳しく解説します

「真摯さ」とは?ドラッカーを深く理解する重要キーワードを詳しく解説します

真摯さ」は、“マネジメントの父”ことピーター・F・ドラッカーの思想体系の中核を成す重要なキーワードです。ドラッカーのいう真摯さには「仕事上の真摯さ」と「人間としての真摯さ」があります。これら2つの真摯さを兼ね備えていなければ、組織は破壊されます

真摯さはごまかせない。ともに働く者とくに部下は、上司が真摯であるかどうかは数週でわかる。無能、無知、頼りなさ、態度の悪さには寛大かもしれない。だが、真摯さの欠如は許さない。そのような者を選ぶ者を許さない。このことは、とくにトップについていえる。組織の精神はトップから生まれるからである。組織が偉大たりうるのは、トップが偉大だからである。組織が腐るのはトップが腐るからである。「木は梢(こずえ)から枯れる」との言葉どおりである。

『マネジメント』より

なぜ真摯さが重要なのか?マネジメントにはリーダーシップが不可欠だからです。「マネジメントとリーダーシップは別」と考える人もいますが、それは誤りです。ミッション(使命)に組織を方向づけるためにマネジメントがあります。そしてマネジメントを行うには、働く人たちの模範となる“真摯な存在”が必要です。

真摯さを絶対視して、はじめてマネジメントの真剣さが示される。それはまず人事に表れる。リーダーシップが発揮されるのは真摯さによってである。範となるのも真摯さによってである。

ドラッカー『マネジメント』より

親であり教師であれと、ドラッカーは説く。「その者の下で息子を働かせたいか」と問う。部下の人生に関わる存在であれということだ。真摯さのない者をマネジャーにすれば、部下の成長を阻害し、やがて人と組織を破壊する。

『ドラッカー教授 組織づくりの原理原則』(著:佐藤等/編:清水祥行)

以下では、ドラッカーが生涯を通して繰り返し何度も「真摯さ」を強調する理由に迫りながら、どのように解釈したほうが適切なのかについて、引用を交えながら解説していきます。

一般的な「真摯さ」の意味は「誠実さ」

ドラッカーは数々の著作の中で「integrity(インテグリティ)」という言葉を使っています。翻訳者の上田 惇生 (うえだ あつお)氏はintegrityを「真摯(しんし)さ」と訳しました。

それではまず、一般的に「真摯さ(integrity)」はどんな意味を持つのかを確認してみましょう。

「integrity」の一般的な意味

the quality of being honest and having strong moral principles

引用:Oxford Learner’s Dictionaries

英語において「integrity」とは「誠実であること/強い道徳規範を備えることの資質」とされています。文脈が変わろうとも、意味が大きく変化することはないようなので、基本的にはこの理解で大丈夫でしょう。

「真摯」の一般的な意味

まじめで熱心なこと。また、そのさま。

引用:goo国語辞書

日本語において「真摯」は「批判を真摯に受け止める」「真摯な気持ちで接客する」といったような使い方をされます。「まじめで熱心」を「誠実」と解しても特に問題はないでしょう。

さてそれでは、この真摯という言葉は、ドラッカーの文脈に照らし合わせて考えると、どんなふうに解釈できるでしょうか。

ドラッカーの「真摯さ」とは「仕事上の真摯さ」と「人間としての真摯さ」の2つの意味がある

結論からいうと、ドラッカーが説く「真摯さ」には2つの側面があります。それは「仕事上の真摯さ」と「人間としての真摯さ」です。この2つを満たすことで、はじめて社会に意義のある仕事ができます。ドラッカーはそう考えたのでした。

①仕事上の真摯さ

ドラッカーは『プロフェッショナルの条件』(2000年)で、「私の人生を変えた七つの経験」について語りました。それらの体験は、ドラッカーの思想体系のルーツとなりました。

七つの経験の中には、物事を成し遂げるうえで「真摯さ」が重要であると気付いたエピソードがあります。ドラッカーが20代の頃のエピソードです。

当時ドラッカーは、19世紀イタリアの作曲家ヴェルディの作品『ファルスタッフ』に感銘を受けていました。80歳になっても「最高傑作は次の作品だ」と言えるヴェルディの若々しいチャレンジ精神と、「失敗し続けるに違いなくとも完全を求めていこう」とする気概は、青年ドラッカーの人生観に大きな影響を及ぼしたのでした。

「真摯さ」を学んだのは、そんなときでした。

ちょうどそのころ、まさにその完全とは何かを教えてくれる一つの物語を読んだ。ギリシャの彫刻家フェイディアスの話だった。紀元前440年ころ、彼はアテネのパルテノンの屋根に建つ彫像群を完成させた。それらは今日でも西洋最高の彫刻とされている。だが彫像の完成後、フェイディアスの請求書に対し、アテネの会計官は支払いを拒んだ。「彫像の背中は見えない。誰にも見えない部分まで彫って、請求してくるとは何ごとか」と言った。それに対して、フェイディアスは次のように答えた。「そんなことはない。神々が見ている」。この話を読んだのは、ちょうど『ファルスタッフ』を聴いたあとだった。ここでも心を打たれた。

ドラッカー『プロフェッショナルの条件』p. 100

……成果をあげ続ける人は、フェイディアスと同じ仕事観をもっている。つまり神々が見ているという考え方である。彼らは、流すような仕事はしたがらない。仕事において真摯さを重視する。ということは、誇りをもち、完全を求めるということである。

ドラッカー『プロフェッショナルの条件』p. 108

古代ギリシャの彫刻家フェイディアスは、彫刻家として仕事をするうえで、妥協をしませんでした。正面から見えない背中の部分であっても、「神々が見ている」と考え、徹底して彫り抜いました。

ドラッカーがフェイディアスから学んだのは、まさに仕事に対する“誠実さ”すなわち「仕事上の真摯さ」でした。

ですが、注意しなければならないのは、「仕事上の真摯さ」だけでは、組織のマネジメントは成しえないということです。たとえ仕事に誠実な者でも、部下や顧客に対する真摯さを欠いているものは、チームのマネジャーにしてはなりません。さもなければ組織は破滅します。ドラッカーはそう戒めました。

②人間としての真摯さ

仕事上の真摯さを持つだけでは、人を導き、成長を促すリーダーとはなれません。ようするに「仕事“だけ”はできる」者は、人の上に立つことはできないのです。その理由についてドラッカーは次のようにいいます。

部下、特に仕事のできる野心的な若い部下は力強い上司をまねる。したがって、力強くはあっても腐ったエグゼクティブほどほかの者を腐らせる者はいない。そのような者は自らの仕事では成果をあげることができるかもしれない。ほかの人に影響のない地位に置くならば害はないかもしれない。しかし影響のある地位に置くならば破壊的である。(中略)人間性と真摯さは、それ自体では何事もなしえない。しかしそれらがなければ、ほかのあらゆるものを破壊する。したがって、人間性と真摯さに関わる欠陥は、単に仕事上の能力や強みに対する制約であるにとどまらず、それ自体が人を失格にするという唯一の弱みである。

『経営者の条件』より

真摯さを絶対視して、はじめてマネジメントの真剣さが示される。それはまず人事に表れる。リーダーシップが発揮されるのは真摯さによってである。範となるのも真摯さによってである。

『マネジメント』より

人間としての真摯さとは何か? 人間としての真摯さを知るには、「真摯さを欠くマネジャー」の条件を理解するのが近道です。マネジャーとは、組織やチームをマネジメントする者のことです。ドラッカーは真摯さを欠くマネジャーの条件を次のように整理しました。

真摯さを欠くマネジャーの条件
  • 強みよりも弱みに目を向ける者
  • 何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心をもつ者
  • 真摯さよりも頭のよさを重視する者
  • 部下に脅威を感じる者
  • 自らの仕事に高い基準を設定しない者
  • 実践家ではなく評論家である者

もう一つ、「人間としての真摯さ」を理解するヒントがあります。それはドラッカーが説く「リーダーシップ」論です。

  • 真のリーダーは、言動に一貫性がある
  • 真のリーダーは、組織の使命に矛盾がないように意思決定をする
  • 真のリーダーは、責任は常に自分にあると理解している
  • 真のリーダーは、部下を恐れない
  • 真のリーダーは、優秀な部下を自らの誇りとする
  • 真のリーダーは、自分が去った後に組織が崩壊することを恥とする

もし上記のリーダーの要件に該当しない場合は、「真摯さ」を欠いているということができます。

真摯さは上司としての資質に必要なもの

以上のことをふまえて整理すると、真摯さとは、上司として必要な資質です。

たとえば上司が部下の弱みばかり指摘するとしましょう。そんなことをされると誰だって気が滅入るものです。部下の自己肯定感はさがり、やがて主体性をなくしていきます。ましてや部下を退職に追い込むようなことは、あってはなりません。

できることよりもできないことに目を向ける者は、上司としての真摯さに欠けるとして、ドラッカーは厳しく指摘しました。

真摯さを定義することは難しい。しかし真摯さの欠如は、マネジメントの地位にあることを不適とするほどに重大である。人の強みよりも弱みに目がいく者をマネジメントの地位につけてはならない。人のできることに目の向かない者は組織の精神を損なう。

『マネジメント』より

ドラッカーは、組織は働く人の強みを活かすことで成果が出ると説きます。

弱みを克服するのではなく、強みを伸ばすことで、個人の能力を最大限に引き出し、組織全体の成果を高めることができます。弱みを克服しようとするのは、足が遅い人が、早く走る練習をするようなものです。

弱みからは何も生まれない。結果を生むには利用できるかぎりの強み、すなわち同僚の強み、上司の強み、自らの強みを動員しなければならない。強みこそが機会である。強みを生かすことは組織に特有の機能である。

『経営者の条件』より

だからドラッカー教授は、上司が「弱みに焦点を合わせることは、無責任である」とさえ言っています。上司は、部下の強みを最大限に生かす責任があります。強みを活かすことは、個人の成長だけでなく、組織全体の活性化にもつながるからです。

真摯さは後天的に習得できない資質?

真摯さは誰でも学び・身につけることができるでしょうか?

真摯さの習得に関して、ドラッカーは重要な結論に達しています。すなわち、真摯さは「後天的に獲得することができない資質」である、といいます。

つまり真摯さは、学んで身につけることはできないのです。ある意味で身もふたもない結論です。

真摯さは資質です。多くの企業をコンサルティングしてきたドラッカーだからこそ、その意味は深刻です。“身もふたもない”と一笑に付すには、あまりに深刻な命題です。

「真摯さ」は習得できるものではないというドラッカーの結論には、“どこまでいっても人間本性は変わらない”、“人は変えることができない”という諦念を見てとることもできます。

事実、ドラッカーは“成長の責任は本人自身にある”と繰り返し主張してきました。組織にできるのは、人が自己成長できる環境づくりであって、成長の手伝いではありません。おそらくドラッカーは、「真摯さ」を教えこめばマネジャーの条件を満たせると考えてはならないと警告していますのでしょう。

「仕事ができる」と「真摯さ」は関係ない

ドラッカーは「真摯さ」を2つの側面から定義しました。妥協しない真面目さを表した「仕事上の真摯さ」と、道徳的に優れた考え方と実行力を表した「人間としての真摯さ」です。

「真摯さ」から、わたしたちは何を学び取ることができるでしょうか。

ひとつ言えるのは、単純に”仕事ができる”を理由に昇進させてはならないということです。これは人手が足りないベンチャー企業や、巨大化しすぎて人事すらもルーチンワーク化してしまっている大企業が、しばしば犯しがちなタブーです。

真摯さを定義することは難しい。しかし真摯さの欠如は、マネジメントの地位にあることを不適とするほどに重大である。人の強みよりも弱みに目がいく者をマネジメントの地位につけてはならない。人のできることに目の向かない者は組織の精神を損なう。マネジメントに携わる者は現実家でなければならない。評論家であってはならない。

何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心をもつ者をマネジメントの地位につけてはならない。誰が正しいかを気にすると、部下は無難な道をとる。おかした間違いを正すよりも隠そうとする。

真摯さよりも頭のよさを重視する者をマネジメントの地位につけてはならない。有能な部下に脅威を感じる者もマネジメントの地位につけてはならない。そして、自らの仕事に高い基準を設定しない者をマネジメントの地位につけてはならない。

(『ドラッカー365の金言』)

仕事ができるということと、人のマネジメントができるということは、まったく別の領域です。同一に語ってはなりません。

さいごに

マネジメントの父と称されるドラッカーは、世界的に有名な経営者や政治家たちに数々の影響を与え、日本の経営も非常に高く評価していたことで知られています。

当サイト「ナレッジプラザ」では、そんなドラッカーを学んだ経営者やビジネスマンが実際に仕事や経営に活かして数々のピンチを乗り越え、成功を収めた実例を記事形式で紹介しています。

「部下がどんどん辞めていく」
「スタッフと自分のモチベーションにギャップがある」
「売上急落の原因がわからない」
「会社のビジョンが見えてこない」

このような方は、ぜひ「実践するドラッカー講座」に参加してみてください。

この講座は、進行役であるファシリテーターと参加者とともにドラッカーの著書を読み、そこで得た学びを自分事として日々の仕事や生活の中で実践することを目的としています。

参加者は、経営者をはじめ、中間管理職から新入社員、学生、主婦、教員、事務員、公務員、フリーランス、自営業など様々な職種の方々が立場を越えて学び合っています。また、異業種の交流の場となり、新たな出会いもあります。

「ドラッカーについてもっと学びたい」「実践者からアドバイスをもらいたい」とご興味を持った方は、ぜひ一度、お気軽に問い合わせてください。

一覧へ戻る