わが社の技術、情報、知識を使ってどんな成果を出せるのか【経営のヒント 697】
「医薬品メーカーにとっての遺伝子工学や電子医療機器のように、聞いたこともない技術が突然産業と技術に革新を起こす。」
『経営の真髄』<上>p.128
前回からドラッカー教授が挙げた7つのパラダイムシフトについて見ています。
第四のパラダイムシフトについてです。
旧パラダイム:技術と市場と用途はセットである。
新パラダイム:自らの産業や企業に最も大きな影響をもたらす技術は、自分たちの世界の外のものである。
新型コロナウィルスに対抗するため、mRNA(メッセンジャーRNA)という新しい遺伝子工学上の技術を使ってワクチンが作られました。従来の製法に比べ格段に開発期間が短縮され、パンデミックと闘う武器が早期に人類の手に渡りました。
現代では、医薬品メーカーと遺伝子工学は深く結びついています。つまり新しいパラダイムにしたがって事業が構築されています。
過去振り返ると、世界一の写真フィルムメーカーであったコダックは、1975年にデジタルカメラを世界で初めて開発していたにもかかわらず2012年に倒産しました。新技術を手にしながらフィルム事業の成功が大きかったゆえのジレンマに陥ったからです。
技術とは、情報であり知識です。事業のマネジメントの対象は、既存の市場だけではなく、技術、情報、知識であり、産業によってはむしろ後者が決定的な経営資源となることを示しています。
「わが社の技術、情報、知識を使ってどんな成果を出せるのか」。こう自問することが重要です。これらの答えが非顧客からもたらされることも珍しくありません。わが社が考える市場や用途から距離があればあるほど非顧客は見えにくいものです。
既存の市場や用途を離れて、自社の技術や知識がどのような貢献ができるかを考える機会をもつことがますます重要になっています。立ち止まって考えるべき時は今です。
佐藤 等(ドラッカー学会理事)