自己変革能力は常に試されている【経営のヒント 702】
「自己変革する能力もまた、事業の定義のなかに組み込んでおかなければならない」
『経営の真髄』<上>p.156
事業を定義する際、前提となる3つの要素を挙げました。
(1)事業の定義の要素は3つあります。第一に、組織のミッションにしたがっている事業であること、第二に、自社の強みを基盤としていること、第三に、経営環境に適合していることです。
ドラッカー教授は、これに3つを加えて「事業の定義を有効にするための4つの条件」と呼びました。
(2)3つの前提は、それぞれ互いに合致しなければならない。
(3)事業の定義は、組織全体に周知徹底させなければならない。
(4)事業の定義は、常に検証していかなければならない。
(3)についてドラッカー教授は、「事業の定義は規律でなければならない」といいます。規律とは組織を方向づけることです。逆にいえば、事業の定義が規律性をもっていなければ、意味がないということです。
ドラッカー教授はその背景を次のように述べています。
「組織が成功するにつれ、事業の定義を当たり前のこととし、特別の意識を持つ者がいなくなっていく。こうして杜撰になる。手軽にすまそうとする。正しいことよりも都合のよいことを追いかける。考えなくなる。疑問を発しなくなる。答えは覚えていても、慣習が規律に代わることはない」。
つまり私たちは、いとも簡単に、成功の落とし穴にはまります。現状維持がもっとも賢い選択であるとかつての経験が邪魔するのです。
しかし(1)の前提にある「経営環境に適合」していることが、常に満たされていることはありません。通常は、経営環境の変化により不適合となっています。つまり事業の有効性が劣化しています。
このような状況を打破するために(4)の条件をしましました。「事業の定義は、石板に刻まれた碑文ではない。仮説にすぎない。それは常に変化する」のです。事業は、ミッション実現の手段に過ぎません。手段は状況によって変えていかなければなりません。私たちの自己変革能力が、常に試されているのです。
佐藤 等(ドラッカー学会理事)