ドラッカーが示した外なる成長と内なる成長とは【経営のヒント 630】
新しいテーマ<マネジメントと人間力>5回目です。前回取り上げたドラッカー教授の言葉から始めます。
成果をあげるエグゼクティブの自己開発とは真の人格の形成でもある。それは機械的な手法から姿勢、価値、人格へ、そして作業から使命と進むべきものである。
『経営者の条件』
「成果をあげるエグゼクティブの自己開発」の先に人間学でも主要なテーマとなる人格や使命があるというのです。ドラッカー教授の次の言葉は、自己開発を定義した言葉です。
自己開発とは、スキルを修得するだけでなく、人として大きくなることである。おまけに、責任に焦点を合わせるとき、人は自らについてより大きな見方をするようになる。うぬぼれやプライドではない。誇りと自信である。一度身につけてしまえば失うことのない何かである。目指すべきは、外なる成長であり、内なる成長である。
『非営利組織の経営』
ここでは、二種類の自己成長の存在が示されています。前回触れたように伊與田覺先生は、人が成長するには徳性、知能、技能が必要だと指摘しました。徳性は内なる成長に、知能と技能は外なる成長に関係しています。「人間として大きくなる」ことは内なる成長と関係しています。
では、内なる成長の方法についてドラッカー教授はどのように述べているのでしょうか。結論から言えば断片的です。「人間として大きくなる」という方向と高い基準を示しましたが方法は具体的に明示されていません。ここがマネジメントとの接点であり、マネジメントという方法論の限界といえましょう。
つまりマネジメントは、人間が行うものであり、その対象は事業や仕事であるということです。ドラッカー教授も人のマネジメントも重要なマネジメントの対象に加えています。しかし次の言葉が示すように本質的には、直接のマネジメントの対象ではないといえましょう。
普通のマネジメントの本は、人をマネジメントする方法について書いている。しかし本書は、成果をあげるために自らをマネジメントする方法について書いた。ほかの人間をマネジメントできるなどということは証明されていない。しかし、自らをマネジメントすることは常に可能である。
この言葉は『経営者の条件』の「まえがき」にあります。人をコントロールすることはマネジメントではないとし、セルフマネジメントが本質であることを明言しているのです。まさに伊與田先生の著書『「大学」を味読する 己を修め人を治める道』の書名どおりです。
さて先ほどのドラッカー教授の言葉には続きがあります。
そもそも自らをマネジメントできない者が、部下や同僚をマネジメントできるはずがない。マネジメントは、模範となることによって行うものである。
「模範」とは、範を示すことと模倣したいと思わせる相互作用の結果です。範を示すのは言動においてです。どのような言葉を使い、何を行なうかが重要です。さらに重要なことは、真に模倣したいと思わせるために必要なことは何かです。この辺りは次回からおいおいと。
佐藤 等(ドラッカー学会理事)