組織という道具を使って自己実現を果たす時代【経営のヒント 680】
第一に、企業が主人、従業員が従者とされた。
『経営の真髄』<上>p.90
1870年前後に企業が誕生したとドラッカー教授はいいます。ところが100年後の1970年ごろ、5つの常識が逆転したといいます。
その一つが企業と従業員の主従関係。「会社に使われている」という言葉がその象徴です。
今でも「会社に使われている」と思って働いている人…いませんか。
ドラッカー教授は、常識が逆転したといった1970年以前の1964年にすでに次にように記しています。
「エグゼクティブの成果をあげる能力によってのみ、現代社会は二つのニーズ、すなわち個人からの貢献を得るという組織のニーズと、自らの目的の達成のための道具として組織を使うという個人のニーズを調和させることができる」
『経営者の条件』
「自らの目的の達成のための道具として組織を使う」。人が会社に使われるのではなく、会社という道具を人が使うと明言しています。すでに逆転の視点がドラッカー教授にはあったのです。
なぜこのような逆転現象が起こったのでしょうか。
知識労働者がその理由です。現代の組織社会における主要な価値は、お金や工場などのモノによって生み出されているのではなく、人、とりわけ知識労働者がもつ知識が生み出しているのです。
このため知識労働者が生産手段をもつ時代になりました。このため現代は、従業員が組織を必要とする以上に組織が従業員を必要としているのです。少なくとも対等の関係です。
組織に属するすべての人が組織という道具を使って自己実現を果たす時代です。前回指摘したように30年以上継続する組織はほんの少数で、知識労働者の職業人生が50年続く時代においてはなおさらです。成果をあげる能力を修得し善き人生を送りたいものです。
佐藤 等(ドラッカー学会理事)