自己実現という社会的心理的欲望の開発【経営のヒント 758】
「仕事は面白いものでなくてもよい。しかし、自己実現させるものでなければならなくなった」
『経営の真髄』<上>p.324
豊かさは最近のものであるとドラッカー教授は言います。
20万年ともいわれる長い人類の歴史のほとんどの期間が死に直結する飢えという恐怖との闘いでした。先進国の多くは、経済的な豊かさによってこの恐怖から解放されました。
ところが…
「今日、圧倒的に多くの人たちが経済的な豊かさへの関心を失ったという気配はない」と言います。
豊かさの中での将来的への漠然とした不安の結果、食物貯蔵に代えてお金という貯蓄手段によって将来の飢えの可能性を緩和させようとして経済的な豊かさへの関心を持ち続けているのでしょうか。
このような関心は、地球上の資源を枯渇させ、持続可能性を奪うのではないかという課題にも結びついているのではないでしょうか。
一方で先進国では知識労働が増え、仕事に自己実現という社会的心理的満足を求めるようになりました。経済的な報酬を超えたものを期待するようになったのです。この指摘は重要です。
利益は多ければ多いほどいいという思考に代表される制限のない経済的欲望に対抗する社会的心理的欲望という一方の主軸が出現しているのです。自己実現という社会的心理的欲望の開発こそは、機能する社会の持続可能性を高めるポイントなのです。
「エグゼクティブの成果をあげる能力によってのみ、現代社会は二つのニーズ、すなわち個人からの貢献を得るという組織のニーズと、自らの目的の達成のための道具として組織を使うという個人のニーズを調和させることができる」
『経営者の条件』の結びの言葉です。人類は果たして2つのニーズを調和できるのか。貴方の日々の自己実現に向けての営みがその一歩となるのです。
佐藤 等(ドラッカー学会共同代表理事)