成功物語【経営のヒント 267】
第20章は、「成功物語」というちょっと変わったテーマです。
取り上げられた物語は、日本的経営、IBM、ドイツのカール・ツァイス社のケースです。
そのうちから今日は、日本的経営について取り上げます。
<ドラッカーの一言>
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学習曲線に高原はない。継続学習は学習曲線を
突き抜けさせる。そこから新しい学習曲線が始まる。
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『マネジメント』p.301 1973年 ダイヤモンド社より
ドラッカー教授は、日本の継続学習を禅方式と呼びました。そして学ぶことの目的を修養であるとしました。その結果、変化とイノベーションを進んで受け入れる土壌ができているといいます。
面白いのは、継続学習は「スキルのトレーニングとは別ものである」と明言している点です。
継続学習は、働く者が学んだことを生かして、自らの仕事ぶりと仲間の仕事ぶりを向上させるという状態を作り上げることを目的としています。
かつてドラッカー教授は、18世紀の禅の高僧、白隠慧鶴の言葉をとして禅の始祖達磨を描くのにどれだけの時間を要したかを聞かれて「10分と80年」と答えたという逸話を紹介しました(『すでに起こった未来』)。西洋では技術の水準を達成するために何十年という練習が必要だったことを意味し、日本では達磨を描ける人間になるための精神的な修業が何十年も必要だったことを意味しているといいました。
このように日本における継続学習は、昇進や単なる技能習得のためではなく、自己啓発と精神的な完成への行為であるとしました。「技能は訓練によって一段の成長が図られ、絶え間なく真の完成に向かっていく」と極上の賞賛をしました。
このような精神性を現代の日本人が受け継いでいるかどうかは疑わしい気もしますが、このような考えが基底にあることは喜ばしいことです。一つのことを何十年にわたり続けることで自己修養を図るという方法論は、日本人特有のものとして大切にしていきたいものです。
佐藤 等