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組織のリーダーに社会全体においてもリーダーであることを求める【経営のヒント 775】

多元社会が要求する公的責任とは、自らのミッションの追求の過程において、公益をもたらすべきことを意味する。
『経営の真髄』<上>p.378

ドラッカー教授は、組織のリーダーの社会的責任と公的責任を別のものとし、公的責任は社会的責任を超えるものであるといいます。

「社会的責任とは、自らのミッションの追求において、他に害をなさないことを意味します。同時に、社会に存在する問題の解決に貢献することを意味する」

これに対する公的責任は、組織のリーダーに社会全体においてもリーダーであることを求めるものです。

社会全体におけるリーダーの不在の末路は歴史が証明しています。ドラッカー教授は中世のはじめの社会がリーダーなき多元社会だったといいます。これを説明するためにローマ帝国から説き始めます。

ローマ帝国は文化的多様性を保持しつつ、ローマ法とローマ軍団によって政治的な統一を実現した一元社会でした。

ローマ帝国の崩壊によって、文化的多様性から封建貴族、教会区、企業、職業ギルドなどの政治的、宗教的、経済的に自立した組織が生まれました。

国王や法王への忠誠は形式となり、実質的に無数の自立した組織が割拠し、自らの利益を優先し行動しました。

1300年には、もはや社会全体を一つのコミュニティとすることは不可能になり、社会は崩壊し、秩序が失われました。

西洋は多元化を失い、あらゆる社会理論と政治理論が主権は、ただ一つに集権化させていきました。こうして16世紀に「主権国家」が誕生し、社会は一元化されていきました。

中央主権化で一元化された社会は、市民革命で再び多元化の時代を迎えました。1860年代、大企業が出現し、多元社会のメインプレイヤーが登場しました。

中央政府に権力を独占しようとする試みは、ドイツのナチズム、ソ連のスターリニズム、今日でも権威主義的政府として残存しています。

以上、歴史が示す一連の流れです。

今日、政府が社会の問題をすべて扱えるわけではありません。それぞれがそれぞれのミッションに特化した自立した組織が必要です。一方で中世の多元社会が崩壊した轍を踏むことは避けなければなりません。全体の利益を犠牲に、自らの価値観を追求し続ければ、同様に現代の多元社会も崩壊します。組織のリーダーに社会全体においてもリーダーであることを求めるのはそのためです。

 

佐藤 等(ドラッカー学会共同代表理事)

 

ドラッカー教授

佐藤 等

<実践するマネジメント読書会®>創始者。『実践するドラッカー』(ダイヤモンド社)シリーズ5冊の著者。ドラッカー学会理事。マネジメント会計を提唱するアウル税理士法人代表/公認会計士・税理士。ナレッジプラザ創設メンバーにして、ビジネス塾・塾長。Dサポート㈱代表取締役会長。
ドラッカー教授の教えを広めるため、各地でドラッカーの著作を用いた読書会を開催している。公認ファシリテーターの育成にも尽力し、全国に100名以上のファシリテーターを送り出した。誰もが成果をあげながら生き生きと生きることができる世の中を実現するため、全国に読書会を設置するため活動中。
編著『実践するドラッカー』(ダイヤモンド社)シリーズは、20万部のベストセラー。他に日経BP社から『ドラッカーを読んだら会社が変わった』がある。 2019年12月『ドラッカー教授 組織づくりの原理原則』を出版。 雑誌『致知』に「仕事と人生に生かすドラッカーの教え」連載投稿中

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