人間学とドラッカーのセルフマネジメント【経営のヒント 629】
新しいテーマ<マネジメントと人間力>の4回目です。この試みは、ドラッカー教授の次の言葉から始まっています(前回も掲載)。
「マネジメントとは、科学であるとともに同時に人間学である。客観的な体系であるとともに、信条と経験の体系である」
『マネジメント<上>』p.38
今日は、人間学とドラッカー教授のセルフマネジメントの異同について考えてみたいと思います。
伊與田覺先生は、その著書『「大学」を味読する 己を修め人を治める道』で
人が成長していくためには「人間学」と「時務学」が必要であると述べました。人間学には徳性が、時務学に知能と技能が含まれるとしました。そして、これを社会的能力に高めたものが道徳、習慣、知識、技術だと教えています。
20世紀半ばに生まれた、マネジメントという知識は、社会における専門知識となり現在に至っています。この知識を使いこなす能力を知性といいます。伊與田先生の区分ではマネジメントは「時務学」であり、「人間学」の領域は交わるところがありません。人間学への近接は、ドラッカー教授の次の言葉が参考になります。
「だが成果をあげるエグゼクティブになること自体は特別に賞賛されるべきことではない。ほかの多くの人のように、自らの責務を果たすようになるだけのことにすぎない。そもそも成果をあげるエグゼクティブたるべく自らを訓練することについて述べた本書か、キルケゴールの自己開発に関する偉大な小論『キリスト教の修練』と比較される心配などない」
『経営者の条件』
つまりドラッカー教授は「成果をあげるエグゼクティブになること」は、人格に踏み込むような自己開発とは一線を画すべきものであることを示したのです。ではその接点はどこに求められるべきでしょうか。ポイントは「習慣」にあります。
一人ひとりのエグゼクティブと同じように、組織もまた成果をあげるべく体系的に仕事をし、成果をあげる習慣を自らのものにする必要がある。
『経営者の条件』
ドラッカー教授は、成果をあげる能力を習慣的能力であると言います。上の言葉は、その習慣的能力が一人個人のものではなく、組織に必要な能力として、つまり社会的習慣として身につけるべきことを述べています。
伊與田先生は、「習慣」を人間学の領域に含めていますのでこの辺りが人間学とマネジメントの接点ということができます。接点は異同の「異」の部分を考えるのに重要です。次の言葉がそのことを示しています。
「成果をあげるエグゼクティブの自己開発とは真の人格の形成でもある。それは機械的な手法から姿勢、価値、人格へ、そして作業から使命と進むべきものである」
『経営者の条件』
成果をあげる能力は、組織(社会)からのニーズを満たすために必要なものですが、一人ひとりが成長するという個人のニーズからも必要な習慣的能力だということです。しかも人格や使命という到達点をドラッカー教授は視野に入れています。
使命や人格に関わる領域として人間学では「徳性」を挙げました。このような領域についてドラッカー教授の知見はあるやなしや。この話題は次回探求したいと思います。
佐藤 等(ドラッカー学会理事)