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コビー博士が掲げた人格主義とインサイドアウトという原則【経営のヒント 634】

新しいテーマ<マネジメントと人間力>の9回目です。前回は、何を習慣化すべきかを述という観点からコビー博士の『七つの習慣』を紹介しました。

1 主体的であること
2 終わりを思い描くことから始める
3 最優先事項を優先する
4 相互依存のパラダイム
5 まず理解に徹し、そして理解される
6 シナジーを創り出す
7 刃を研ぐ

コビー博士は人格主義を掲げ、インサイドアウトという原則を挙げています。コビー博士は、アメリカ建国以来発行された約200年間の「成功」に関する文献を調査し一つの結論に達します。建国から150年の文献で大切にされてきたことは、誠意、謙虚、勇気、正義、忍耐、節制、倫理的な黄金律などでした。ところが今につながる50年間は、コミュニケーションスキルやポジティブシンキングなどのテクニック論に傾斜していると見抜いたのです。前者を人格主義、後者を個性主義と定義し、本当に大切なものは人格であるとし、これをインサイドと位置づけ、内側から変わり、外側に影響を及ぼす人になることを目標として7つの習慣をつくりあげました。

建国から150年、アメリカの国民は、誠意、謙虚、勇気、正義、忍耐、節制、倫理的な黄金律などを大切にして生きてきました。その代表的なものに「ベンジャミン・フランクリンの十三徳」があります。ハイブロー武蔵訳『若き商人への手紙』から紹介します。

1.節制:頭や体が鈍くなるほど食べないこと。はめをはずすほどお酒を飲まないこと。
2.沈黙:他人あるいは自分に利益にならないことは話さないこと。よけいな無駄話はしないこと。
3.規律:自分の持ち物はすべて置き場所を決めておくこと。仕事は、それぞれ時間を決めて行うこと。
4.決断:なすべきことをやろうと決心すること。決心したことは、必ずやり遂げること。
5.節約:他人や自分に役立つことにのみお金を使うこと。すなわち無駄遣いはしないこと。
6.勤勉:時間を無駄にしないこと。いつも有益なことに時間を使うこと。無益な行動をすべてやめること。
7.誠実:だまして人に害を与えないこと。清く正しく思考すること。口にする言葉も、また同じ。
8.正義:不正なことを行い、あるいは、自分の義務であることをやらないで、他人に損害を与えないこと。
9.中庸:何事も極端でないこと。たとえ相手に不正を受け激怒するに値すると思っても、がまんしたほうがよいときはがまんすること。
10.清潔:身体、衣服、住居を不潔にしないこと。
11.冷静:つまらないこと、ありがちな事故、避けられない事故などに心を取り乱さないこと。
12.純潔:性的営みは、健康のためか、子供を作るためにのみすること。性におぼれ、なまけものになったり、自分や他人の平和な生活を乱したり、信用をなくしたりしないこと。
13.謙譲:イエスおよびソクラテスを見習うこと。

まさにコビー博士が人格主義と呼んだ徳目が細大漏らさず書かれていると思いませんか。まさに内側から変わり、外側に影響を及ぼす人になるための習慣です。

フランクリンは、この13の徳目を1週間に一つ修得することを目指して、1年に4回この過程を繰り返したといいます。習慣は身体の能力化されてはじめてその威力が発揮されます。習慣については、「何を」「どうやって」という2つの側面が重要ですが、フランクリンは両面を行っていたといえます。

さて伊與田覺先生は、人間に必要なものを知性、技能、徳性といい、社会人として必要なものを知識、技術、習慣、道徳だと指摘しました。フランクリンの13の徳目を見るとまさに社会人として必要なものの意味が伝わってきます。同時にコビー博士が人格主義と評したことも首肯できるところです。

佐藤 等(ドラッカー学会理事)

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