事業のマネジメント―シアーズ物語【経営のヒント 239】
今日は、『マネジメント―課題、責任、実践―』、第5章「事業のマネジメント―シアーズ物語」からお伝えします。
今日の一言は味わい深いものです。
<ドラッカーの一言>
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われわれはまず、実際の企業行動を観察すること
から始めなければならない。
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『マネジメント』p.58 1973年 ダイヤモンド社より
この一言に先立つ言葉は「真の企業理論とマネジメントの体系が確立されていないからである。
したがって、われわれはまず…」です。
つまり「実際」から始めなければならないというのです。
言葉を変えれば、理論は実際に経験したことからしか生まれないということです。
本書『マネジメント』は、『現代の経営』の姉妹書になります。
後者は1954年生まれ、前者は1973年生まれです。
姉である『現代の経営』が誕生したとき、まだマネジメントという言葉は、今のような意味で使われていませんでした。
まさに「体系が確立されていない」状態だったのです。
ドラッカー博士は、混沌とした企業経営の現場を見て、一つの体系を生み出す決心をしました。それが「マネジメント」という道具箱でした。
当時、道具箱の中の道具には、名前がついていませんでした。
名前はありませんが、例えば後に「ミッション」とよばれる道具そのものは存在していました。
しかし、そのような道具を企業に持ち込むことはとても稀なことでしたが、この名もない道具を上手く使って経営を行っていた企業がありました。
第5章で扱う、当時、世界の小売業で最も利益をあげているシアーズ・ローバック社でした。
シアーズ・ローバック社の成功物語は、ある道具の存在を示すものでした。
その道具とは「われわれの事業は何か」を問うことでした。
つまり企業のミッションを問うことだったのです。
ミッションに焦点を合わせることで何度もイノベーションを成功させてきました。
ドラッカー博士は、この成功物語を経営の一つの道具として提示することにしました。
こうして事業の存在意義、目的、使命、ミッションという考え方が経営に導入されました。
ドラッカー博士のやったことは、実際の企業行動を観察し、伝えやすい言葉で理論化し、全体に位置づけ体系化したことです。
このときはじめてマネジメントは、伝え、教えられるものになりました。
もう一度いいます。
理論は実際に経験したことからしか生まれません。
本書『マネジメント』には、この他にも「フォード物語」、「IBM物語」などの実際の企業行動が登場します。
ドラッカー博士は、その後に一つひとつ道具として名前をつけマネジメントという道具箱に収納しました。
そういう意味でドラッカー博士は、徹底した実証主義者だということができます。
多くの著書が、このポリシーの下、生み出されました。
それゆえ言葉に説得力があります。デメリットは一つです。
それは言葉が実践を凝縮し、コンセプト化したものであるがために、すぐには飲み込めないような場合があることです。
つまり実践の濃縮ジュースなのです。
少々飲みにくければ水で割る必要があります。
少々のトレーニングが必要です。
しかしトレーニングの後では、その道具箱から道具で取り出し、自在(?)に使えるようになるから不思議です。
トレーニングの仕方…?それは直接お尋ね下さい。
秘訣をお知らせします。
佐藤 等