マネジメントの基盤を哲学から読み解く【経営のヒント 639】
<マネジメントと人間力>というテーマは、次の言葉から始まりました。
「マネジメントとは、科学であるとともに同時に人間学である。
客観的な体系であるとともに、信条と経験の体系である」
『マネジメント<上>』p.38
この言葉は、マネジメントが科学と人間学という対極にある領域にまたがる総合的な問題解決の方法であることを示しています。
しかし別々に見えるものも元は、哲学という共通の親から生まれたものです。
科学の祖は、「我思うゆえに我あり」という言葉で有名なデカルトです。
デカルトが著した著書『方法序説』(1637)は、「屈折光学」「気象学」「幾何学」の3つの論文の序文として書かれました。
つまり、「理性を正しく導き、すべての科学において真理を探究するための方法の序説」だったのです。
一方、哲学は政治学の源流でもあり、政治学からさらに経済学が生まれていきます。
ドラッカー教授が政治学で博士号をもっていたことと問いを発し、ものごとの本質を考える哲学の手法に習熟していたことは、偶然ではありません。
また、『国富論』(1776)を著し経済学の祖といわれるアダム・スミスが、同書に先立ち『道徳感情論』第4版(1774)を出版したのも哲学という共通の母体から生まれたからです。
このような事情を考えれば、マネジメントの基盤を哲学に求めてもあながち間違いではありません。
人間学と科学が交差する領域が哲学だからです。
哲学から枝分かれした各学問領域をカバーする表現として「マネジメントとは、科学であるとともに同時に人間学である」が用いられました。
マネジメントこそ現代のリベラルアーツであるとのドラッカー教授の真意を今一度考える必要があるのではないでしょうか。
佐藤等