ドラッカー教授が考える「失敗」の価値【経営のヒント 642】
<マネジメントと人間力>というテーマは、次の言葉から始まりました。
「マネジメントとは、科学であるとともに同時に人間学である。
客観的な体系であるとともに、信条と経験の体系である」
『マネジメント<上>』p.38
この連載を始める頃から、人間学に関する著作に触れる機会が増えました。
今日は、その学びの中から一つお伝えします。
ドラッカー教授の言葉に「失敗」に関するものがあります。
「信用してはならないのは、決して間違いを犯したことのない者、失敗したことのない者である。
そのような者は、無難なこと、安全なこと、つまらないことにしか手をつけない」
『マネジメント』
ドラッカー教授は、失敗に価値を置いていることがわかります。
「ことなかれ主義」の危険を指摘し、仕事に高い水準を自ら設定することを求めました。
それは一人ひとりの自己成長のためです。
失敗を巡る組織の対応は様々です。
必罰をもって望む組織があり、成長の機会として生かす組織もあります。
失敗をした本人は、責任を感じ、自らを省みて、ばん回の機会をうかがいます。
しかし対応を間違えば、失敗を恐れ、やがてことなかれ主義へと変質していくかもしれません。
挑戦をしない、挑戦をさせない環境が生み出す結果は、組織の衰退です。
鍵山秀三郎氏は、失敗と困難を混同してはいけないといいます。
失敗した本人の前にあるのは、失敗ではなく困難であると教えます。
失敗とは結果を表す言葉ですが、困難は成長の過程に出会う砥石です。
自己を練磨するための機会です。
ドラッカー教授は、より端的に述べます。
「人は失敗しても再びチャンスを与えられればやり遂げる」
『非営利組織の経営』
ことなかれ主義を脱し、人が成長し、その活力が組織にみなぎることが人間学としてのマネジメントの要諦です。
「失敗」の価値をよくよく考えマネジメントに生かしたいものです。
佐藤 等(ドラッカー学会理事)