ドラッカー教授の「人生を変えた7つの経験」から読み取る「賜生(しせい)」【経営のヒント 643】
ここ数か月、<マネジメントと人間力>というテーマで連載しています。連載は次の言葉から始まりました。
「マネジメントとは、科学であるとともに同時に人間学である。客観的な体系であるとともに、信条と経験の体系である」
『マネジメント<上>』p.38
今回から少しモードを変えて、人間学の領域に含められる主要なコンセプトに焦点を当て書いてみたいと思います。
「賜生(しせい)」、天から賜った命を生きるという意味の言葉があります。しかし単に生きるのではなく、人間学では「天から賜った自分という人格を成熟させる」という意味を含んでいます。
この言葉は、ドラッカー教授の生きざまそのものです。ドラッカー教授の「人生を変えた7つの経験」に「賜生」を象徴するストーリーがあります。
「音楽家としての全人生において、私は常に完全を求めてきた。そしていつも失敗してきた。私には、もう一度挑戦する責任があった」
この言葉は、ハンブルグで商社の見習に就いていた18歳の経験から来ています。音楽との接点が多い家庭に育ったドラッカーは、オペラを聴き慣れていました。しかし、難解な曲でめったに上演されることがなかったヴェルディの『ファルスタッフ』を聴き圧倒されます。さらに明るく人生の喜びを歌いあげるその演目が80歳の老作曲家の手によるものであることを知り、衝撃を受けます。
当時ワーグナーと並ぶ名声のヴェルディがなぜ難曲に挑戦したのか。この問いに答えた言葉が先の言葉です。ドラッカー教授自身、生涯、心に消すことのできない刻印となって残ったと述べています。
当時のヴェルディの年齢を超えたドラッカー教授(84歳)は、自分の人生を振り返ります。
「努力を続けることこそ、老いることなく成熟するコツである」。
ドラッカー教授が95歳で亡くなった2005年2月に日本経済新聞社の「私の履歴書」に自身の連載が載りました。次の言葉は、全27回の末筆の言葉ですが、成熟を続けた人生であったことを垣間見ることができます。
「有名になることだけが人生を測る物差しではない。これからもこのことを忘れないでいたい。最初に書いたように私には『引退』という言葉はない」。
「賜生」。人格を成熟させには、仕事は切っても切り離せない関係があります。しかし仕事以外のあらゆる経験の中にその機会が存在することを「安岡正篤先生の言葉が教えてくれます。
「人物修練の根本条件は勇敢に、あらゆる人生の経験を嘗(な)め尽くすことである」
老いるのではなく成熟を重ねる人生でありたいものです。
※人生を変えた7つの経験については、以下の記事を参考にして下さい。
Dラボーみんなで実践するマネジメント広場ー 投稿記事より
初心者におすすめのドラッカーの本「ここから読むべき」その2『プロフェッショナルの条件』―ドラッカー教授の「人生を変えた7つの経験」から第1話【目標とビジョンをもって行動する】
佐藤 等(ドラッカー学会理事)