【実践企業紹介】美容室BALANCEさま その後
活き活きと働いて成果があがる職場には、“お客様”も“人材”も集まる!
人材の獲得に関しては、マーケティング的な目標を持つことが必要である。「必要な人材を惹きつけとどまってもらうには、彼らの仕事をどのようなものにする必要があるか。仕事の市場にはどのような人たちがいるか。彼らの関心を惹くにはどうしたらよいか」を考えなければならない」。 『マネジメント上』P144 |
「地域に愛されるサロン“日本一”を目指す」をコンセプトに、岡山県倉敷市の美容室「BALANCE.」はここ数年、快進撃をつづけています。 昨年(2015年)の5月に、2店舗目を出店。 以来、前年同月期の売上は130%以上を記録しつづけ、3年前の売上と比べて約2倍になっています。 この成長を支えているのは、スタッフの主体性にあると、社長の才野さんは考えています。
「ドラッカーを読んだら会社が変わった!」でも掲載されたように、『理想の顧客像を明らかにすること』『測定指標を工夫すること』によって、スタッフからのアイデアが泉の如く湧き出すチームをつくったBALANCE。
ところが、昨年の秋には、スタッフの中に「やらされ感」が漂うようになりました。 すべてのスタッフから、次々と湧き出すアイデア。 それはすばらしいことだったのですが、これを全て実践すると、やるべきことが多くなりすぎて主体性を失い、「ただ、こなしている状態」になっていたのです。
才野さんは、これではいけないと思い、これまで積み重ねてきた取り組みを「一度、すべてやめてみよう。」と宣言しました。 そして、「意味がある、効果がある、と感じるものを復活させていこう・・・。」この宣言で、スタッフの皆さんは、主体性を取り戻しました。
成果をあげる者は、新しい活動を始める前に必ず古い活動を捨てる。 「経営者の条件」p.145 実践するドラッカー[思考編]p.226 |
その後、定期的に廃棄する仕組みとして取り入れたのは、スタッフとの定期面談です。ここでの才野さんからの問いは3つ。
①自分あるいは周囲は“いっぱい&いっぱい”の状態になっていないか?
②(今やっている制度について)続けることに価値はあるか?
③どのような効果が出ているか?
これまでの取り組みに対して惰性ではなく、主体性を持って実施できているかを、本人たちが振り返る時間をつくったのです。
この時、才野さんは、もっぱら聞き役に徹します。ご自身の耳たぶを親指と人差し指でつまんで・・・・「僕は、ここに『聞くスイッチ』がついているんですよ。そう自分に言い聞かせています。だから、ここをつまんでいるときは、僕は話の腰を折ったりはできないんです。」
聞け、話すな。 (経営者の条件p.15) 実践するドラッカー[チーム編]p.186 |
一店舗の売上・利益が3年間で倍増している上に、2店舗目を早々に軌道に載せ、3店舗目の出展も視野に入れている才野さんに、事業拡大にともなう人材の不足がおきていないかをお聞きしました。 業界、同業者の間では一般に「スタッフを募集しても、人が集まらない」「人が入ってもすぐに辞めてしまう」という状況をよく耳にしていたたからです。
ところが、才野さんのところではそうした人材の不足はないとのこと。不思議に思って、その理由を聞いてみると・・・「スタッフが後輩を誘ってきてくれているからかなぁ。」とのこと。後輩が勤務先を辞めたと知った時、当店に誘ってくれているという状況があるそうです。
このお話を聞いたとき、これが成立する前提に思いを馳せました。 第一に、既存のスタッフが自分の職場や仕事を好ましく思っていない限り、後輩を誘うことはしません。 第二に、その後輩から充実した仕事をしている先輩として認識されていなければ、そのお誘いやアドバイスを聞くこともないはずです。 第三に、その組織が成長していて、既存のスタッフと新入のスタッフとのイス取りゲームが起こるのではなく、一緒に成長できるだろうという認識がされていることです。
そんな風土を醸成したのではないかという、三つの取り組みをご紹介します。
①働きぶりについてのフィードバック:
以前は「飲みニケーション」でしたが、一緒に晩御飯を食べ、酒を飲み、意気投合したと思っていたスタッフが翌月退職願を出してくる・・・なんて事があり、意味がない、効果がないと感じていました、と才野さん。 そこで、「終礼」の際に、才野さんからスタッフの一人ひとりに、「今日、良かったこと」を伝える時間をつくりました。 「○○さんの、あの時の対応が良かった」「こう自分がお客様に提案したら喜んでくれた」といったことを発表しています。 自分を肯定的に振り返る機会を毎日つくっているのです。 「でも、お一人お一人に伝えるのって大変ではないですか?」との質問に、才野さんは、「この言葉って、いってみれば、金銭ではない報酬なんですよ。しかも活き活き働くためには、何物にも変えがたい報酬なんですよ。だから、僕がそれくらいのことをやるのに苦を感じたりはしませんよ。」
働きがいを与えるには、仕事そのものに責任を持たせなければならない。そのためには、①生産的な仕事、②フィードバック情報、③継続学習が不可欠である。 (マネジメント[エッセンシャル版]p.74) 実践するドラッカー[チーム編]p.44 |
②チームメンバーの夢の実現を応援:
お店のバックヤードには、一人ひとりの夢実現マップを貼りだしています。 一人ひとりについて、一枚の紙に実現したい夢を想起する写真を貼りつけたものを掲示しているのです。 その内容は、「海外旅行」であったり、「車」であったり、「彼氏」や「結婚」であったりするのですが、実はその夢を多くのスタッフさんが、次々と達成できているのです。 他のスタッフは、その実現について協力できるものは協力し、実現したときには共に喜びます。 これは、誰かに管理されない、自己目標管理であり、達成感を味わう工夫でもあります。
従業員の目に企業の目的が利益の追求と映る限り、自らの利益と企業の利益の間に対立を確信せざるをえない。また生産が利益を生み、自分が利益を生むとの迷信を信じざるをえない。 (現代の経営《下》p.181) 実践するドラッカー[チーム編]P.76 |
③「売上と利益」による仕事ぶりの判断をやめる。
「売上と利益の目標はあります。でも、それを強調することをやめました。現場の人には、日々の仕事に集中できるように、『き・ま・あ』指数のような仕事ぶりの指標については測定していますが、売上や利益についてはあまり触れていません。 なのに、ちょっと無理気味に設定した目標を難なくクリアしてくれているんです。」
「売上・利益は経営者としては重要だが、それは末端のスタッフにはあまり重要なことではない」という才野さんの過去の反省があります 同社では、いろいろな失敗を通して現在のスタイルに落ち着いています。 しかし、絶えず見直しもかけ「それは今も有効か」を問いています。 ドラッカーのことばを自分たちの組織に実践として落とし込み、成果を上げる同社に、更なる注目が集まっています。