社会的な正統性【経営のヒント 690】
「ネクスト・ソサエティにおいて、企業にとって最大の課題は社会的な正統性の確立である。すなわち、価値観、ミッション、ビジョンの確立である。(中略)それぞれの組織の個の確立である」
『経営の真髄』<上>p.104
現在、ロシアがウクライナに侵攻し、戦争状態にあります。欧米諸国は、連携してロシアに経済制裁を課しています。輸出入規制や支払・特定資本取引規制など国が発令し、実効性を上げつつあります。
このような規制の実行者は、銀行や商社など企業です。アップルなどのIT企業はサービス提供を停止、マクドナルドなど飲食店やユニクロなど小売店は閉店しました。これらは各企業単位で独自に判断し実行されています。これらの行為は、企業の社会的な正統性を背景にされたものです。
企業の価値観が社会的な正統性に反する行為は、厳しく糾弾される時代になっています。これまでもグローバル経済下で少数民族などに強制労働によって生産するなどの行為に対する監視も強まっていました。シフトが起こっています。
それぞれの企業の価値観、ミッション、ビジョンが確立されていなければ、これらの対応に素早く動くことはできないでしょう。このような動きをグローバル企業だけの動きと見るのは早計です。社会的な正統性とは、市民感情を基底にしているからです。それは国内だけを活動範囲にする企業にもすでに影響を及ぼしているということです。
今や「組織の個の確立」が最大の課題です。社会的な正統性の確立は、そもそも社会的な道具として生み出された存在が企業ですから当然と言えば当然です。「企業とは何か」と問うて処女作を出してから(1939年)80年余。長い助走期間を経てドラッカー教授の言葉が今実現されつつあります。
佐藤 等(ドラッカー学会理事)