明日を支配するもの【経営のヒント 519】
日本の終身雇用制の起源は19世紀末から20世紀初頭だといわれています。
工業の黎明期において熟練労働者の定着率を高める目的で行われたといいます。
1901年八幡製鉄所が操業を開始したように日本も本格的な重工業の時代に入っていった頃の話です。
まさに産業構造の変化が人の働き方を変えたといえましょう。
<ドラッカーの一言>
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私は、日本が、終身雇用制によって実現してきた社会的な
安定、コミュニティ、調和を維持しつつ、かつ、知識労働と
知識労働者に必要な移動の自由を実現することを願って
いる。
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『明日を支配するもの』p.233
終身雇用制はその後、戦後の高度成長期の人手不足への対応として制度として定着していきました。
ドラッカー教授は「日本は、働く者が動かないようにすることによって、
社会として歴史上類をみない成功をおさめてきた」と評価したのです。
「終身雇用制のもとでは、個々の人間をマネジメントするのは、明らかに組織のほうである」。
終身雇用とセットとなっているのが年功序列制度です。退職まで昇給のレールが引かれていたのです。
これにより社会は安定し、子供を生み、家を持ち、仕事に励んだのです。
しかしこのようなレールが崩壊しました。
70年代のオイルショックを引き金とした海運、造船不況は序曲にすぎませんでした。
日本のバブルが弾けたのは90年代です。1997年、98年には大手金融機関が破綻し深い谷に落ち込みます。
人員整理、経営破綻、就職の超氷河期…日本が築き上げてきた終身雇用、年功序列といった制度が音を立てて崩壊しました。
あれから20年、一部社員の終身雇用を守るため非正規労働という逃げ道を生み出し、社会は不安定化しました。
その結果、晩婚化が促進され、産む子供の数が減り日本の未来がしぼみつつあります。
さて今一度問いたいと思います。果たして終身雇用、年功序列という制度(思考)は日本からなくなったのでしょうか。
習慣はすぐには変えられるものなのでしょうか。
例えば100年の歴史がある企業からこれらの思考が消えてなくなるとは考えられないのです。
言葉だけ成果主義がまん延し、批判を浴びて衰退し、本来の成果主義が問い直されています。
人と職務、能力、評価をめぐる問題は課題山積です。
社歴が長いほど「個々の人間をマネジメントするのは組織」であるという思考に染まっている可能性が高いと思います。
指示待ち族の存在は、個々の人間だけの問題なのではありません。
経済変動で世界に類をみない習慣を手放しつつある日本。
しかし欧米流の「私の仕事はこの範囲だけ」と考える職務給には違和感があります。
善きものを残し、変えるものは変革する。
ドラッカー教授が望んだ宿題に私たちは今こそ取り組まなければならないのではないでしょうか。
佐藤 等