最大化ではなく最適化【経営のヒント 753】
「最大化という目標は決して達成されることがない。それどころか、達成に近づくほど一層の努力が求められる」
『経営の真髄』<上>p.304
第16章は「公的機関における企業家精神」です。
公的機関とは、政府、労働組合、教会、大学、学校、病院、NPO、慈善団体、職業別団体、業界団体などを指しています。イノベーションとは縁遠い、ように思えるかもしれませんが、企業以上に必要であるとドラッカーはいいます。
しかし公的機関では、既存事業の存在がイノベーションの障害になるといいます。以下三つの原因を挙げます。
(1) 公的機関では成果ではなく予算にもとづいて活動する。
(2) 公的機関は非常に多くの関係当事者によって影響される。
(3) 公的機関は善を行うために存在する。
この中でも (3) を最大の障害としました。公的機関は自らのミッションを道義的に絶対視し、そのための活動を費用対効果の対象とは考えていないからです。
飢餓撲滅運動のリーダー例が挙げられています。彼らは「地球上に飢えている子供が一人でもいるかぎり、われわれのミッションは終わらない」といいます。
一人でもいる限り、つまりゼロにするためには、多大なコストが求められます。「達成に近づくほど一層の努力が求められる」とは、このような状況を指しています。
「最適値を超えるや、得られる成果は指数関数的に小さくなり、必要とされるコストは指数関数的に大きくなるからである」
最大化ではなく最適化-公的機関だけでなく営利組織においても必要な思考です。
さて、公的機関におけるこのような障害を乗り越えてイノベーションを起こすには、どうすればいいのでしょうか。ドラッカーは公的機関がイノベーションを行ううえで必要とする企業家精神として示しました。次回のテーマとさせていただきます。
佐藤 等(ドラッカー学会共同代表理事)