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社会人として何を模倣の対象とするのか【経営のヒント 631】

新しいテーマ<マネジメントと人間力>の6回です。前回取り上げたドラッカー教授の言葉から始めます。

成果をあげるエグゼクティブの自己開発とは真の人格の形成でもある。それは機械的な手法から姿勢、価値、人格へ、そして作業から使命と進むべきものである。
『経営者の条件』

人格にまで踏み込んで記述したドラッカー教授。さらに前回「模倣」という一つのキーワードに関するドラッカー教授の言葉を紹介しました。今日は次の問いを考えてみたいと思います。

「何を模倣するのか」

これまでの連載で、たびたび伊與田先生の言葉を紹介していますが、ここでは伊與田先生が社会人として大切なものとして挙げた道徳、習慣、知識、技術のどれが模倣の対象となるかを考えてみたいと思います。

まずは「技術」から。従来は、技は盗んで習得せよといわれてきましたのでこれは模倣の対象となりえます。しかし現代では、伝統職人の技術のようなものを除けば、知識とトレーニングによって習得できるようになっていると考えた方が妥当です。

「知識」についてはどうでしょうか。ドラッカー教授は、知識と情報を使い分けています。情報を身体能力化したとき、はじめて知識になったといいます。その意味で知識は、情報を起点とした一つの能力と言えるでしょう。これもまた現代では、自ら情報に触れ、自ら習得すべきものといえましょう。

では「習慣」はどうでしょうか。習慣とは繰り返しにより、無意識に身体能力として発揮できる状態です。習慣は他人の姿としてしか触れることはできません。「どんな習慣がどれくらいのレベルで身についているか」…言葉にすればおおよそこんな感じでないでしょうか。おそらく本人に聞いても「よくわからない」という返事が返ってきそうです。このような対象は、まさに「模倣」という方法しかありません。しかし、その中でもドラッカー教授は「成果をあげる習慣的能力」の重要性を強調しました。5つあるということは「どんな習慣」かが明示されている状態です。これは知識と習慣の中間にあるようなものです。第4回目の連載に掲載した次の言葉を思い起こしましょう。

「成果をあげるエグゼクティブの自己開発とは真の人格の形成でもある。それは機械的な手法から姿勢、価値、人格へ、そして作業から使命と進むべきものである」
『経営者の条件』

ドラッカー教授は、成果をあげるエグゼクティブに必要な能力が5つあるとし、『経営者の条件』(1966)、原タイトルTHE EFFECTIVE EXECUTIVE で詳細に説明しました。まずは部下に成果をあげる能力について模範となるよう習慣づけることが重要だということがわかります。5つの能力は以下のとおりです。

1 時間を管理する
2 貢献に焦点をあてる
3 自分の強みを生かす(人の強みを生かす)
4 重要なことに集中する
5 成果のあがる意思決定をする

しかし習慣化すべきものは多様です。これがすべてだとはとても言い切れません。何があるのか。今日触れなかった「道徳」という伊與田先生がいう社会人として大切なものを含めて次回考えてみたいと思います。

佐藤 等(ドラッカー学会理事)

ドラッカー教授

佐藤 等

<実践するマネジメント読書会®>創始者。『実践するドラッカー』(ダイヤモンド社)シリーズ5冊の著者。ドラッカー学会理事。マネジメント会計を提唱するアウル税理士法人代表/公認会計士・税理士。ナレッジプラザ創設メンバーにして、ビジネス塾・塾長。Dサポート㈱代表取締役会長。
ドラッカー教授の教えを広めるため、各地でドラッカーの著作を用いた読書会を開催している。公認ファシリテーターの育成にも尽力し、全国に100名以上のファシリテーターを送り出した。誰もが成果をあげながら生き生きと生きることができる世の中を実現するため、全国に読書会を設置するため活動中。
編著『実践するドラッカー』(ダイヤモンド社)シリーズは、20万部のベストセラー。他に日経BP社から『ドラッカーを読んだら会社が変わった』がある。 2019年12月『ドラッカー教授 組織づくりの原理原則』を出版。 雑誌『致知』に「仕事と人生に生かすドラッカーの教え」連載投稿中

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