新産業の誕生【経営のヒント 179】
今年最後の【経営のヒント】は、『断絶の時代』第二章「新産業の誕生」からです。
1969年に書かれた本書で紹介された新産業は情報産業、海洋産業、素材産業、都市開発の四つです。それ以前の牽引役は、農業、鉄鋼業、自動車工業だといいます。ドラッカーが今後の牽引役として示した新産業は、その差はあるもののいずれも成長を主導してきたことは誰もが認めるところです。今から見て当時の「予測」の当否を問うことは、あまり意味がありません。
今回のテーマは、ズバリ「予測」についての私たちの誤解についてです。
<ドラッカーの一言>
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差し迫る重大な現実を見逃し、あるいは注意さえ
払わないことほど危険なことはない
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エターナル版『断絶の時代』1969年 ダイヤモンド社より
ドラッカー博士は、「未来は予測できない」とい言います。氏は、「的外れ」という言葉を使って、「予測」に潜む、当たるも八卦、当たらぬも八卦的な考えを浮き彫りにしています。そのような無責任な「予測」をすることで招来する危機について述べたものが、今日の一言です。
根拠のない「未来予測」の落とし穴といっても言い過ぎではありません。
さて当時の「新産業の誕生」から私たちが学ぶべきことは、未来を「予測」するのではなく重大な現実を見逃さないという姿勢です。見逃すべきではない「新しい重大な現実」は、「価値観、世界観、目標の変化」によってもたらされるといいます。大切なことなので掘り下げておきます。
第一に「新しい現実は、変化によってもたらされる」ということです。変化のない連続の上に今がある限り、新しい現実は生じません。新しい現実が、重大な現実であればこれを見逃す訳にはいきません。変化を観る眼が大切といわれる理由です。
これまでの現実を診て、今を見ることで変化が観えてきます。
第二に「変化の中身」についてです。「価値観、世界観、目標」といったものは、どれも実はつかみどころのないものです。ドラッカー博士は、後に『イノベーションと企業家精神』で「認識」と表現しています。世の中の空気のようなものです。
例えば価値観、「環境に優しい」という言葉、少なくても20年前には聞いたことがありません。グローバルスタンダードという世界観、いつからそんな言葉が常識になったのでしょうか。株式時価総額を目標にするという誤った経営スタンスが世の中を席巻した時代、そんな昔ではありませんでした。
このように世の中の空気が変わるとき、実体としての現実が動き出します。
世の中の大半の人が○○と言い出す前に、その先駆けとして変化をつかむ能力が求められています。さらに、これらの空気が本物かどうかを見極めることが大切です。
時価総額優先経営などの本物として首を傾げたくなるものをいち早く見抜く力が必要です。そうでなければ、せっかく先頭グループで変化をキャッチしても誤った道を選択することになるからです。若者は「KY」という言葉を使います。
「空気を読めない」という意味です。
そんな能力が求められていることを、直感的に感じているのでしょうか。
来年の世の中の空気、街の空気、自社の空気など年末年始に感じてみる必要がありそうです。
佐藤 等