経営戦略の前提が変わる【経営のヒント 159】
『明日を支配するもの』第二章「経営戦略の前提が変わる」からお届けします。
ドラッカー博士によれば、事業は企業を取り巻く環境、企業の使命、企業の強みの3つの要素によって定義することができるといいます。これらがマッチしたところに、事業としての収入が生まれ、企業は継続することができます。
ところがこの3つの要素のうち「企業環境」については、激変の時期に直面し、企業の操縦が難しい時代に入っています。この時期をドラッカー博士は、「乱気流の時代」と呼んでいます。この時代は、1970年頃に始まり、2020年頃まで続くといわれています。このような環境激変のときは、「自分の事業はこれだ」ということ、つまり事業の定義を明確にしにくい時代です。そんな環境の中、20世紀の末に発せられた言葉が今日の一言です。
<ドラッカーの一言>
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経営戦略がなければ、何が成果に結びつき、
何が資源の浪費に過ぎないかを知る術はない。
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『明日を支配するもの』1999年
私たちは、経営戦略という言葉を耳にし、また使います。ドラッカー博士によると経営戦略とは、「事業の定義を現実の成果に結びつけるものである」と明確です。
つまり経営戦略は、事業で成果をあげるための道具であるということです。
事業の定義は、例えば「私たちの事業は、○○を通じてお客様に安心と快適さを提供することです」と、とても抽象的、概念的です。これに対して成果は、売上や利益、あるいは客数など具体的、現実的です。これらの間を埋めるのが経営戦略です。いつまでに何を、どれくらいどうやってやるか。何が必要かなどを決めることです。それが経営戦略です。
こうして決められた戦略を実行して初めて成果が現れます。また、資源の浪費となるかどうか、つまり失敗であるかどうかもわかります。思うように成果が出ないとき、あるいは失敗が続くとき、こう問わなければなりません。「事業の定義は適切か」。
「経営環境とミスマッチを起こしていないか」、「企業の使命にずれが生じていないか」、「これまで培ってきた強みが競争力を失っていないか、陳腐化していないか」などです。
とくに現代は、乱気流の時代。昨日みていた現実と今日みている現実は違う現実、「新しい現実」です。事業が継続していくための前提が崩れやすい時代です。一方でそんな時代は、チャンスの時代でもあります。脅威を機会に変えることができた企業だけが、第二創業、第三創業・・を迎えます。
この「乱気流の時代」が面白いのは、過去のルール、常識、パラダイムが通用しないからです。つまり「新しい現実」に対して、横一線。しかし現実は、スタート地点の心構えで差がついているのです。過去のルール、常識、パラダイムにとらわれていると、正しい方向にスタートを切ることはできません。どんなに努力しても到達予定地へは、着かないのです。なぜなら、例えば西へ45度違えて、第一歩を踏み出してしまうからです。その先の差は歴然です。
また一方で、スタートの第一歩を正しく切れる人がほとんどいないことも事実です。
なぜか。過去の経験則が通用しないからです。この時代に通用するのは、道々にいる顧客、非顧客という名の道先案内人に、「こちらで方向は合っているのか」と繰り返し問うことができる人だけです。激変期の今、私たちに必要な能力は、聞くこと。そこから新しい時代のルールやパラダイムは、何かを感じとる知覚能力が求められています。この時代を毎日ワクワク過ごす人と、そうでない人の差は、そんな単純な能力と「昨日と今日は違うのだ」という心構えによるものなのです。
佐藤 等