最終章「結論:マネジメントの正当性」【経営のヒント 388】
『マネジメント』もいよいよ最終章です。
この章は、「結論:マネジメントの正当性」というタイトルです。
61章も続いた後の結論に興味津々です。
<ドラッカーの一言>
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マネジメント自体、一つの知識である。
それ自体の領域、スキル、知識をもつ体系である。
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『マネジメント<下>』p.297 1973年 ダイヤモンド社
ドラッカー教授は、『マネジメント』のまえがきで「マネジメントとは一つの体系である。
単なる常識の一とすべきものではない。経験集でもない。一つの立派な知識体系である」と
述べ大著を始めました。
その体系は『現代の経営』(1954)で、その輪郭を明らかにし、
本書『マネジメント』で一応の体をなしたといえます。
あえて「一応の体」と書いたのには訳があります。
ドラッカー教授の思想からすれば、マネジメントに完成はないと結論づけるのが妥当です。
そもそもドラッカー教授が『現代の経営』(1954)を書き始めたときの決意を記した言葉があります。
「私は、じっくり腰を下ろして、この暗黒大陸たるマネジメントの世界の地図を描き、
欠けているために新たに生み出さなければならないものを明らかにし、
すべてを組織的、かつ体系的に一冊の本にまとめようと決心した」
(『現代の経営』1985年版のまえがき)。
ドラッカー教授は、当初から体系化を意識し、欠けているものを補いながら邁進しました。
欠けているものは、時代とともに環境の変化で新たに生まれ、その都度体系に位置づけてきました。
たとえば、知識労働者というコンセプトは、『現代の経営』(1954)を著したときには存在しませんでした。
ドラッカー教授が行ってきたことは、自ら提示したコンセプト「未知なるものの体系化」そのものでした。
元素記号表が未完成であるように、マネジメントという体系もこれから生成発展していきます。
しかし完成しないからといって無効、無力ではありません。
むしろその時々の体系を理解し、用いることが大切です。
体系とは、根拠をもった原理や方法を基礎とし、それらの要素間の関係性が明らかな形で整理されたものです。
筆者は、若き頃、ドラッカー教授が用いた言葉「ツール・ボックス」の道具の仕切り板と
その仕切り板の中にある個別の道具のイメージが浮かびます。
体系化のメリットは、必要な時に必要な道具を取り出せることです。
木を切るときに、ハンマーではなく、のこぎりを手にすることができるように
トレーニングされている状態が望ましいと言えます。
それはあたかも頭の中で、現場をみて必要な経営の道具を用意できるイメージです。
整理されたツール・ボックスに手を突っ込み、適切な道具を手にするには
道具の役割や目的を知らなければなりません。
さらに使いこなすコツをマスターしていれば万全です。
そのためには訓練が不可欠です。
知識とは、成果や仕事に結び付ける能力です。
ドラッカー教授は体系の重要性を次のように考えていました。
「マネジメントの体系を理解しているならば、マネジメントのスキルには優れていなくとも、
マネジメントとして、しかも一流のマネジメントとして成果をあげることができる。
逆に、マネジメントの体系を理解していなければ、いかなるマネジメントのスキルに優れていようとも、
とうていマネジメントたりうることはできない。せいぜいのところスペシャリスト止まりである」。
この言葉に触れるとき体系としてのマネジメントを修得しようとの意欲がいつも沸き起こります。
単なる知識ではなく「マネジメントとは実践である。その本質は知ることではなく、行うことにある。
その評価は、理論ではなく成果によって定まる。主役は成果である」。
肝に銘じてマネジメントを活用しなければなりません。
佐藤 等