外の世界の変化【経営のヒント 688】
1970年頃まで通用した5つの常識の変化について述べてきましたが、これらの常識が変化したことで何か変わり、どのような影響をもたらしているかを見ています。今日は、四つ目です。
「第四に、市場では、供給側とくにメーカーが主導権をもつとされた。製品やサービスの情報は供給側が持っていた」。しかし「今日では情報を持っているのは顧客のほうである」。
今や、この常識が反転して久しいといっても過言ではありません。その要因は、インターネットです。そしてその恩恵は、顧客側ばかりか企業側にももたらされつつあります。
「外の世界の情報が、つねにインターネットで手に入るようになった」
『経営の真髄』<上>p.107
これまでは、情報といえば組織内部の情報と相場は決まっていました。IT革命によってその量だけが増えてきたいという現実がありました。
「組織にとって最も重要な変化とは、今日の情報システムでは把握できない外の世界の変化である。外の世界についての情報は、ほとんどの場合、コンピュータを利用できる性格のものではない。分類もされなければ定量化もされていない」
『経営の真髄』<上>p.106
顧客の購買履歴という情報であっても過去の内部情報です。非顧客という外の世界をカバーしていませんし、しかも過去情報です。過去情報は定量化し、分析可能です。
ドラッカー教授が「外の世界の情報」といったのは、過去情報ではなく、現在起こっている新しい変化です。まだ量になっていない質的な変化、兆のようなものをとらえよといいます。それに必要なのは、分析ではなく知覚です。
インターネットは、このような要請に対して、ダイレクトに顧客の声にアプローチする道を拓きつつあります。とはいえドラッカー教授がいうように「一歩を踏み出すことができるようになった」に過ぎません。
たとえば、顧客の声がお店や商品選びなど消費者の行動に影響を与えだしています。しかしこれらの情報は、何によって顧客に支持されているかなど定性的な情報の束から紐解いていかなければなりません。それは、コンピュータにできることではなく、人間の知覚能力に依存していることは言うまでもありません。コンピュータという人間が作った最高高度の道具の発達によって、人間が鈍化させてきた知覚という能力を再び磨かなければならないのは何とも皮肉なことです。
佐藤 等(ドラッカー学会理事)