アベノミクス「3本の矢」【経営のヒント 509】
首相官邸のホームページには次のように書いてあります。
「どれだけ真面目に働いても暮らしがよくならない」という日本経済の課題を克服するため、
安倍政権は、「デフレからの脱却」と「富の拡大」を目指しています。
これらを実現する経済政策が、アベノミクス「3本の矢」です。
第一の矢とは「大胆な金融政策」、
第二の矢とは「機動的な財政政策」、
第三の矢とは「民間投資を喚起する投資戦略」です。
<ドラッカーの一言>
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岩崎と渋沢は、豊かな日本ではなく創造力のある強い日本を
つくろうとした。いずれも経済発展の本質は貧しい人たちを
豊かにすることではなく、貧しい人たちの生産性を高めること
であることを知っていた。
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『断絶の時代』p.113
岩崎と渋沢、言わずと知れた岩崎弥太郎と渋沢栄一です。
特に渋沢栄一は日本の資本主義の父と呼ばれており、ドラッカー教授も高く評価していました。
彼らの意図は「豊かな日本ではなく強い日本」でした。
さて、ドラッカー教授の言葉と官邸のホームページの言葉を比べると筆者は少し違和感を憶えます。
その原因はどこにあるか考えてみます。
明治の日本は豊かな国ではありませんでした。
その状況で豊かさではなく、強さを求めたとドラッカー教授は評したのです。
それから150年、日本は世界第三位の富を生み出す国になりました。
私たちはすでに豊かなのではないでしょうか。
デフレからの脱却や富の拡大は目的なのでしょうか。それとも目標なのでしょうか。
すでに豊かな国が、さらに豊かにという。明治の人は経済発展の本質を知っていました。
強い日本をつくること。そのためには生産性を高めることであると。
「どれだけ真面目に働いても暮らしがよくならない」とは「生産性が悪い」の言い換えにすぎません。
国土の構造や産業構造など多くの非生産的な要素を点検しなければならないのではないでしょうか。
たとえば価格の高い土地に高層ビル(高コスト)を立て、多くの人を集めるのは生産的なことなのでしょうか。
これらで生まれた収益は誰が手にするのでしょうか。その一部は社員に渡り、ローンを組んで高額の住宅を購入する。
国はローン控除という特典を与え、つまり税金を投入して、投資を促進しようとします。
住宅メーカーは仕入を強化し土地の値段は高止まりします。
高いものを買わざるを得ないので「どれだけ真面目に働いても暮らしがよくならない」。
実際 首都圏のマンションは高額すぎて庶民には手が届かない状態です。
また現在は奨学金や教育ローンを抱える大学生の比率は50%程度いると言われてます。
彼ら、彼女らは卒業と同時に何百万もの借金を背負うことになり、500万円を超えることもあります。
20年など長期にわたり返済を強いられます。その原因の一つは少子化による教育費の高騰です。
「どれだけ真面目に働いても暮らしがよくならない」。教育産業の構造が日本の非生産的な要素の一つを生み出しています。
個人の生産性、組織の生産性を言う前に日本という国自体の生産性が落ちているのです。
強い日本のために「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する投資戦略」はどれだけ必要なのでしょうか。
100年後の豊かさのために、今何をなさなければならないのか。
岩崎弥太郎と渋沢栄一なら何というのでしょうか。
佐藤 等