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産業人の未来【経営のヒント 511】

政治という社会の一部の分野を観るとき役に立つ視点があります。
元々ドラッカー教授は政治学の博士号を持っており、初期三部作は政治の書といわれています。
教授の第二作目『産業人の未来』(1942)は戦時中にあって戦後の社会のあるべき姿、
つまり機能する社会を描こうとしました。

<ドラッカーの一言>

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政治の世界では一方の柱として信条、目的、希求、価値に
関わる目的の世界があり、もう一方の柱として事実、制度、
組織に関わる現実の世界がある。

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『産業人の未来』p.113

要約すれば、政治の世界の柱「目的と制度」であるということです。
両輪といえましょう。「宗教人」、「経済人」や「産業人」などは目的に関する言葉です。
その時代の社会を動かす「信条や価値は何か」を問うたとき出てくるのが目的です。

これに関して制度があります。経済人の時代に「市場」という制度が生まれました。
また「産業人」の時代に「会社」という組織(制度)が生まれました。

制度も目的に従って生まれます。制度だけ先に誕生することはありません。
制度は公式のルールや非公式の慣習などで形成されています。制度は最小の費用で効果を出そうとします。

ドラッカー教授が最初に企業を描いた書が『企業とは何か』(1946)でした。
「企業という制度が機能するには何が必要か」を描きました。
ドラッカー教授にとってはこれも政治の書でした。

さてこの2つの柱を知っていれば、イギリスのEU離脱問題は、
EUの理念に「欧州単一市場の実現―人・モノ・資本・サービスの移動の自由」があります。
これは目的に属する問題です。イギリスは人の移動の自由に反発して離脱へとつながりました。
「人の移動の自由の制限」と「モノ・資本・サービスの移動の自由」を天秤にかけ前者の重さが勝ったということです。
今後、どのような制度で「モノ・資本・サービス」の欧州市場にアクセスするかが問題となっています。

アメリカの新大統領も人の移動の自由を制限しようとしています。
連邦裁判所に違憲の訴えがされたということは、目的レベルの問題であることがわかります。
大統領令を出しても「制度」レベルの変更は目的が変わらないかぎり容易には受け入れられません。

アメリカは、国境税などでモノの移動にも制限を加えようとしています。
これも制度レベルの変更です。

「強いアメリカ」も「自由貿易」も目的レベルの問題です。強いアメリカのために自由貿易と犠牲にするという
目的レベルの優先順位が確認されない限りこの問題もこう着が予想されます。
そもそも強い弱いという言葉が曖昧です。
議会や国民は新しい目的体系の提示に対してYes、Noを言わなければならなくなるでしょう。
そのとき失望や絶望が社会に溢れないことを願っています。

佐藤 等

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