国民国家からメガテイストへ【経営のヒント 219】
今回は『ポスト資本主義社会』、第6章「国民国家からメガテイストへ」からお伝えします。
この章から「政治」の分野に話題が移ります。
<ドラッカーの一言>
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予算編成が歳出からスタートするならば、徴税に節度がなくなる。
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『ポスト資本主義社会』 1993年 ダイヤモンド社より
支出からスタートしたら家計も企業も破綻間違いなしです。
それなのに政府は生き延びることができる。
日本の政府の借金は700兆円ともいわれています。
なぜそんなことが起こるのでしょうか。
理由は、今日の一言に尽きます。節度を失った徴税にも限界があります。
限界を超えた分は、借金で賄う。残念ながら、これ以外に手はありません。
ドラッカー博士は、政治の主人公が国民であるという意味での「国民国家」から、「メガステイスト」が主人公となり、国民を従えたといいます。
そしてメガステイストの一つの側面として徴税国家であることを挙げました。
徴税国家は歳出を先に考え、足りない分を税と借入で賄おうとします。
借入といっても将来の税金であることに変わりありません。
日本を含め先進国が陥っている状況です。
その理由の一つに経済国家という側面があるとドラッカー博士は指摘します。
例えば、本来民間が行うべき事業を国家が自ら行うことが挙げられます。
社会保険庁などの不効率、無責任体制を挙げるまでもありません。
政府は、行うべきことはルールを作り、管理監督するところという基本原則を忘れてはなりません。
大きな政府、小さな政府という言葉がありますが、政府が実行者になる局面はできるだけ少ない方がいいようです。
「メガステイスト」のもう一つの側面は、福祉国家です。
この理念も多くの国で破綻しています。
制度設計から何十年も経つと前提が大きく変わります。
例えば日本では少子化・高齢化という要素を制度設計の段階では織り込んでいませんでした。
年金会計は破綻し、ツケは後世に回ります。隠れ借金です。
最初に理念があり、その道具として制度を整えます。
当初は、理念と制度はピッタリと適合しています。
ドラッカー博士はゲーテの言葉を用いて「存在の理由はなくなり、恵みは苦しみとなる」と。
若者の多くが将来年金をもらえないと考えています。
そんな世代がツケを払う今の制度は、苦しみ以外の何物でもないのかもしれません。
理念と制度は、長い時間をかけてズレを生じます。これは世の習いです。
理念は消え去り、現実と制度の歪みが大きくなると昔は革命が起こりました。
現代の日本で革命が起こることはまずないと思います。
その際の解決姿勢としてドラッカー博士は「それぞれの世代がそれぞれの革命を必要とする」
というトマス・ジェファーソンの言葉を引用しました。漸進的改革と呼ばれるものです。
ドラッカー博士は、変革のアプローチとして保守主義の立場をとります。
継続するために変革するという姿勢です。
政府だけでなく企業も当初の理念やミッションと制度にズレが生じます。
理由は環境が変化しているからです。
制度ばかりでなく、時にはミッションまで見直さなければならないことがあります。
すべてのものは古くなるという法則を忘れないで日々過ごしたいものです。
佐藤 等