知識の経済学【経営のヒント 223】
『ポスト資本主義社会』、第10章「知識の経済学」は、これからの時代を生き抜くために必要な「ギア」を教えてくれます。
ギア・チェンジの仕方がわからない人、ギア・チェンジし成果を出す人、ギア・チェンジしようとしない人・・・
そんな人たちが混在する時代が目の前に現れつつあります。
格差の拡大といわれずいぶん時間が経ちましたが、問題の本質は「ギア・チェンジ」に成功したかどうかだと思います。
お金の格差問題は、資本主義というシステムを使った社会では不可避的に起こります。つまりお金をうまく運用した人に富が集まるシステムの上に我々がいるからです。
産業革命以来、労働、資本、土地という経営資源の運用に長けた人が財をなしました。大量に物を作り、大量に運び、大量に売るということが富を増殖する必勝パターンでした。そこでは市場開発は必須の条件でした。
東南アジアや東欧はもちろん、中国やロシアでさえ市場として開放されていきました。
開放すべき市場がなくなると金融資本は、原油などの商品やアメリカの住宅市場をターゲットにしました。
前者は付加価値を生まない市場、そして後者は値上がりを期待する幻想の市場でした。
労働や土地といった流動性(移動性)の乏しい資源は、グローバル経済の下では常に高い運用を得られるとは限りません。
「資本」だけが世界を駆け巡り、巨大なバブルを形成しました。
昨年秋、ついにバブルが破裂しました。
そんな時代に生きている私たちが求められているギアが「今日の一言」に示されています。
<ドラッカーの一言>
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富の唯一の、あるいは少なくともその主たる創造者は、
情報と知識になっている。
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『ポスト資本主義社会』 1993年 ダイヤモンド社より
モノを大量に売り込むビジネススタイルは、過去のものになりました。
つまり大きな「土地」に大きな工場を立て、多くの「労働力」を集め、熟練度をあげ労働生産性をあげるスタイルの限界が数十年前にきました。
資本(=お金)は、このスタイルが大好きです。
発展途上国のドアをノックしては入り込み、市場を作るというパターンを繰り返し、投資効率を上げてきました。しかし主要国にモノは溢れその市場は残り少なくなってきました。そんなお金が行き着いた所は、商品や住宅などのトンでもない市場でした。
さてそれでは、これからの資本(=お金)の使い方とはどんなものになるのでしょうか。
今日の一言「富の唯一の創造者は情報と知識」だという指摘からすると、資本は知識装備率と知識労働者の生産性の向上に使うのが有効です。
まずは「唯一の創造者である」というくだりを少し見てみます。
例えば、セブンイレブンは何をどのように売っているのでしょうか。
コンビ二が売っているものは「利便性」だといわれています。
それではその「利便性」の実現の方法とは何でしょうか。
それはお客様の「あったらいいな」を店頭に並べることです。
そのために必要なこと、それは「あったらいいな」の情報です。
この情報をいち早く店頭に届ける仕組みこそが富の源泉です。
北海道にも好例があります。ニトリの快進撃が止まりません。
「値下げ宣言」し、現在1300品目、平均20%の値下げを行っています。
しかも円高還元セールのようなものとは違い、「再値上げしない」との宣言つきです。
つまり単なる円高効果ではなく、恒常的な仕組みが出来上がっていることの証です。
「品質・機能をともなった価格2分の1」のコンセプトを仕組みで実現しています。
品質については海外高級メーカーの商品をよく研究し、これを海外の直営工場と協力工場で生産する仕組みを徹底しています。
情報入手力、商品企画力、迅速な生産体制の構築力など「情報と知識の塊」が消費者に支持されています。
成果をあげている組織の要因は様々ですが、共通しているのは情報と知識の蓄積と運用度が高いことです。ドラッカー博士は、三つの観点から知識をどう生かすかを述べています。つまり
(1)第一に今の生産過程、製品、サービスに対して、さらに知識を使い、これを向上させる「知識の応用」、
(2)既存の知識を新しい商品や工程などに使う「知識の展開」、
(3)そして既存の知識を組み換え、何かを付加して新たな価値を作るイノベーション(知識の新結合)。
これらが知識の生かし方のポイントです。
セブンイレブンやニトリのケースは、一例に過ぎません。
しかし見事に知識の三つの観点が生かされていると感じます。
新たなギアを手にしている同業者も既にいるかもしれません。
出遅れるわけには行きません。
なぜなら今使っているギアは、間違いなくお払い箱行きだからです。
情報や知識は、生かしてナンボです。
<何が大切な情報・知識であるかを知ること→
これらを蓄積すること→活用を始めること→仮設を立て行動すること
→振り返ること→行動にフードバックすること>、
知識活用の連鎖をいつも考えていなければなりません。
新たな価値を手にするために。
佐藤 等