新しい現実【経営のヒント 260】
今日も15章「「新しい現実」からお伝えします。
「新しい現実」は、ドラッカー教授の著書を読む際の重要キーワードです。
『新しい現実』というタイトルの著書まであるくらいです。この言葉は、読んで字のごとくなのですが、「変化」や「兆し」を私たちに伝える言葉です。
従前から比べ、「このような重要な変化」があると伝える書です。
重要な変化とは、私たちの経済や社会に大きな影響を及ぼす変化という意味です。ドラッカー教授の真の姿は、社会生態学者、社会の変化の兆しを伝える役なのです。
15章から23章までのテーマ「仕事を生産的なものにし、人に成果をあげさせる」というマネジメントの第二の役割に重大な変化が起こりつつあることを告げるのがこの章の目的です。しかも<今日の一言>のように強調して述べていますから、見逃すわけにはいかないのです。
<ドラッカーの一言>
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仕事と人の双方が、これからは
史上最大の変動期に入る。
産業革命以降、最大の変革期である。
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『マネジメント』p.215 1973年 ダイヤモンド社より
この書が書かれてから40年近くが経過しています。その間、「最大の変動期」は、先進国はもちろん、いまや新興国をも塗り替え、次なる勢力にまで浸透しています。ドラッカー教授は、その変化を次の3点に要約しています。
(1)組織社会が到来する
(2)肉体労働者の心理的、社会的地位に変化が表れる
(3)知識労働者が台頭する
今から見れば当たり前のことですが、ドラッカー教授は、この変化を「史上最大の変動」と表現しました。そしてそのことは、ものすごいスピードで進行中です。しかし、変化は様々な問題や課題を生み出します。光の部分がある一方で陰の部分が必ずあります。日本を含め、先進国は必ずしもこの陰の部分を克服しているようには見えません。
日本の派遣労働者への対応問題は、(2)のカテゴリーに属します。
派遣に関する法整備の問題だけではないような気がします。ドラッカー教授はこう表現しました。「学歴は上がり給料も上がったが、誇りある労働者階級から二流市民への転落を実感しつつある肉体労働者の心理的、社会的地位の変化に関わる問題」だとしました。
こんな問題もあります。大学を卒業して生涯稼ぐ賃金の合計額は、理系出身者を文系出身者が上回っているといいます。知識労働の性格上当然といえば当然なのですが、知識労働者間にも明確な格差が生まれてきつつあります。(3)のカテゴリーに属する問題です。理系離れという言葉を耳にして久しい気がします。
その一方で理系を中心に大学院修了後の職をとりあえずポスドクに求めた大量の博士号取得者の就職問題が深刻化しているという現状があります。
政策ミスともいわれる問題ですが、チグハグ感は否めません。技術立国の地位を脅かされる今、知識労働者の自覚と社会との関わり方を総点検する必要性を感じます。
佐藤 等