経済学の無効【経営のヒント 184】
『断絶の時代』第7章は、「経済学の無効」というテーマです。
ここでは、当時の経済学の主流であったニューエコノミクスなるものの無能さを批判しています。そのポイントの一つとして利益、技術、知識の取り扱いが現実から離れていることが挙げられます。
今日の一言は、そのうちの利益に関するものです。
<ドラッカーの一言>
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われわれは利益を正しいリスクにかけなければならない。
昨日を守るためではなく明日をつくるために使わなければ
ならない。
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エターナル版『断絶の時代』1969年 ダイヤモンド社より
従来の考え方では、リスクは最小にすることが正しいとされていました。
しかしこの考え方は、「今のやり方を続ける限りにおいて」という限定がつきます。
ところが一国の経済の場面では経済発展が、一企業の場面ではイノベーションが必要不可欠です。
つまり国の経済も企業の経営も「今までと異なるやり方に変化すること」が求められているのです。「異なるやり方」とは、昨日とは違う経営資源の使い方をすることです。今日の手持ちの経営資源を未知の明日のために投下することになります。「異なるやり方」が100%上手くいくとは限りません。
不確実性があることは前提です。そこには、リスクが伴います。
この局面ではリスクを最小にするという思考は、正しくありません。機会の大きさと実現の可能性を前提に、負うべきリスクかどうかを判断するという姿勢が求められます。リスクコントロールです。ドラッカー博士は、リスクを次のように分類して対応すべきといいます。
(1)負うべきリスク:事業に本来的に付随し、機会を最大化させるために立ち向かうべきリスク。
(2)負わないことによるリスク:負わないことにより競合他社に取り残されるような革新的機会に対応したリスク。
(3)無為のリスク:機会を目の前にリスクをコントロールすることを放棄して立ち向かわないリスク。
このうち(1)、(2)はさらに次のリスクに分類されます。
A)負えるリスク:機会の追求に失敗して相当規模の資金と労力を失っても企業が存続できるレベルのリスク。
B)負えないリスク:機会の追求に失敗すると企業が存続できない損失を被るレベルのリスク。
もちろんB)の場合には、追求してはならない機会だということになります。
様々な機会が目の前に現れます。その際、機会の大きさや実現の可能性をリスクの大きさと天秤にかけて意思決定します。それが企業家に求められる姿勢です。
そして何より明日をつくるために昨日の成果である利益を機会に投じる勇気が必要です。リスクに立ち向かうには、勇気が必要なのです。
佐藤 等