「プロの経営者、アルフレッド・スローン」【経営のヒント 417】
今日も『傍観者の時代』の第14章「プロの経営者、アルフレッド・スローン」からです。
この章はしばらく続きます。
<ドラッカーの一言>
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博士号なんてもっていることが
恥ずかしいとされているんです。
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『傍観者の時代』p.306 1979年 ダイヤモンド社
ちょっと耳を疑いたくなる言葉ですが、当時のGMの一風景です。
おそらく他の企業も五十歩百歩だったのではないかと推察します。
ことの経緯はこうです。
GMの調査を行ことになったドラッカー教授に、
窓口となった副社長のドナルドソン・ブラウンから
「まず全体像をつかんでいただくために、
幹部の10人ほどに会ってみてはどうでしょう」と提案を受けました。
「誰から会ったらよいか」
「財務の責任者アルバート・ブラッドレーがいいでしょう(中略)
広報に略歴を用意させましょう」。
しかし何日経っても略歴が来ません。
「ちょっと待ってください」
「写ししかない」
「明日お届けする」
など何か事情があるようでした。
そのことをブラウンに話すと「私の手元にあるものを差し上げましょう」と言われ、
「何を隠したがっているかわかりますか」と聞き返されました。
ドラッカー教授は見当もつきません。
そして意外なことを聞くことになるのです。
「大学を出ているのですよ。
もっと困ったことに、ミシガン大学で経済学の博士号を取っており、
それどころか、私が引っ張っていくまで、そこで何年か教えていたんです」。
そしてこう続けました。
「実はGMの幹部には大卒が多いんです。スローンはMITですし、
私はバージニア工科ですし、社長のウイルソンはカーネギーです」。
しかしGMではたたき上げが尊重される文化がありました。
空軍の装備計画の責任者だった前社長のクヌードスン、
レーシング・チームの元修理工でキャデラック事業部のドレイスタット、
ビュイック事業部のカーティス、シボレー事業部のコイルなどは
小学校しか出ていませんでした。
そんな環境下で「博士号なんてもっていることが恥ずかしいとされているんです」
という言葉が発せられました。
戦前のアメリカの事情を知る一幕です。
当時、大学卒業は役に立たない者と考えられていました。
当時、知識は役に立たないものの代表格でした。
19世紀末に史上初めて知識を仕事に適用したテイラー以降、知識は現場にありました。
しかし戦後退役軍人援護法によって大量の大学卒業者が生まれました。
知識を仕事に適用する者は、現場の熟練労働者から知識労働者へと
シフトしていくことになりました。
長くCEOの席にあったスローンは「大卒が必要になってきました。
もう正規の教育抜きに仕事はできなくなっています」。
スローンはミシガン州フリントに
GMテクニカル・インスティテュートを設立するなど教育に力をいれました。
こうした変化をドラッカー教授自身こう振り返りました。
「ついこの間のあの当時、高学歴が、履歴において、プラスではなく
マイナスであったということにはほとんど信じがたい思いがする」。
時代は大きく舵を切ったのです。
佐藤 等