企業のあり方の新しい波【経営のヒント 767】
企業のあり方については、もう一つ新しい波がやってくる。
『経営の真髄』<上>p.350
「法的な所有者の利益とともに、知識労働者、すなわち組織の富の創出能力を与える存在としての人的資源の利益の観点から、雇用主としての組織とそのマネジメントを見直さなければならなくなる」
これまで法的な企業の所有者とは株主でした。つまり所有権は、おカネで規定されていました。これが、おカネが資源として大きな価値をもった時代のルールです。
では現代はどうか。
現代は、おカネではなく知識が富(価値)を生み出す能力をもつ時代です。おカネには配当という形で投資に対するリターンがもたらされますが、知識という資本の提供者にはどのようなリターンがあるでしょうか。これがドラッカー教授の問題意識です。
知識という資源の所有者は知識労働者です。労働者が生み出した価値は、付加価値という形で表現することができます。付加価値は、当期純利益+人件費+賃借料+減価償却費+金融費用+租税公課で計算されます。一般に大半は人件費です。
マニュアルワーカー(肉体労働者)は、時間対価という意味を基本的な背景として人件費として支払われています。ではナレッジワーカーはどうでしょうか。
現実は、金額の多寡はあるでしょうが、これも人件費として支払われている状況です。この点をドラッカー教授は問題としています。金銭資本に配当があるのに対して知識資本には何もないということです。せいぜい少し多めに人件費が支払われているだけではないでしょうか。つまり、人的資源をコストと見るのではなく人的資本と見たときどのような処遇がふさわしいのかという問題提起です。ドラッカー教授はこれを「新しい波」と表現しました。
知識の所有者である知識労働者は、自由に組織を動き回れるという特性をもっています。労働人口が少ない日本においては、人材の流出は組織存続の可能性に直結します。「企業のあり方」が問われる場面です。よくよく考えてみたい課題です。
佐藤 等(ドラッカー学会共同代表理事)